コーヒーは世界で最も盛んに取引されている農作物の一つです。1日に22億杯のコーヒーが世界中で飲まれ、この20年間増加を続けるコーヒー需要によって、数百万に上がる農園が利益を生み出し続けていることを考えると、当然のことかもしれません。
しかしコーヒー関連の話題では、不自然なほど「中国」の名を耳にすることがありません。
中国のコーヒー文化は、最近驚くほど成長しています。お茶が主流のこの国で、なぜコーヒーが注目されているのでしょうか? 本記事では、お茶愛好家も楽しめる中国コーヒーの魅力についてご紹介します。
中国コーヒーの歴史と発展
コーヒーが中国にやってきた経緯
中国でコーヒーが飲まれ始めたのは、比較的最近のことです。20世紀に入ってから外国の影響を受け、コーヒー文化が広がり始めました。その背景には、世界中からの旅行者やビジネスマンの増加があります。
19世紀にフランス人宣教師のアルフレッド・リエタールが伝道を使命として、まるで絵のように美しい雲南省大理の近隣の村、ズクラ(朱苦拉)にコーヒーを持ち込んだことが発端となり、雲南省は中国最大のコーヒー生産地として知られるようになりました。現在、中国における総生産量の95%超を占めているのは雲南省ですが、海南省の海南島や福建省でもロブスタが栽培されています。雲南省の栽培地はほぼプーアール市に集中しており、生産量は同省総生産量の60%に及んでいます。中国のコーヒー生産量は、スイスの消費量とほぼ同等だというから驚きです。
最近の中国コーヒー産業の成長
中国のコーヒー産業は、近年急速に発展しています。その理由は:
- 新しい技術の導入
- 農家のコーヒー栽培への切り替え
- 国内でのコーヒー消費の増加
これにより、中国はコーヒーの大きな生産国の一つになりつつあります。
コーヒーのるつぼ
生豆には8%の関税がかかることから、ロースター側の採算が取れない場合があります。そのため一部のロースターは国産のコーヒー豆を使い始め、現在では雲南省コーヒーの3分の1が国内市場向けに出荷されています。今後中国における一人当たりの国産コーヒーの消費量が米国の消費量の半分にまで増かす可能性を考えると、これは中国政府にとっても財務上非常に魅力的な展開です。ただこれが現実となれば、アラビカ種の供給量はひっ迫し、価格は上昇するでしょう。
おいしいコーヒーが「贅沢品」から顧客の求める「基準」となった今、中国では最高級のコーヒー豆を調達することの重要性が高めっています。この5年間で中国国内のカフェの数は急増しました。
現在、一級都市(中国の年の中でも重要な地位にあり、経済力や生活レベルが高い大都市)には2万1000軒を超えるカフェが存在し、その87%が個人経営店です。一般的に大都市ではチェーン店の方が数が多いと考えられますが、中国の「コーヒーの中心地」と呼ばれる上海のような一級都市でさえ、市内にある約8000店舗のカフェの大半は大企業の傘下にはありません。ただ、市内にあるカフェの65%はイタリーのイリー(illy)、カナダのティムホートンズ(Tim Hortons)、日本のルタオといった外資系企業によって運営されているという点で、この都市もしかすると例外なのかもしれません。
バリューチェーンの強化を目指す輸出業者にとっても、最高品質のコーヒー豆を調達することが重要な課題となっています。Yunnan Coffee Traders、Mangzhang Farm、オーストラリアのスペシャリティコーヒー ロースターであるPablo & Rusty’sとの提携により、雲南産のスペシャリティコーヒーが初めて大規模輸出を実現させたのはわずか8年前の2015年のことです。2010年以前、雲南産のコーヒーが劣悪なものとして知られていたことを考えると、それも不思議ではありません。2010年から2015年の間、農業技術の向上を目指し国際機関が農園の支援に乗り出したことで状況が改善されたのです。
中国コーヒーの5つの魅力
独特な風味と香り
中国のコーヒーは、その独特の風味と香りで知られています。これは、高い山々や独自の土壌が生み出す特有の条件によるものです。
生産方法の多様性
中国のコーヒー農家は、多様な生産方法を採用しています。具体的には、自然な育成環境を利用したり、手作業で丁寧に豆を選ぶ方法があります。
地域ごとの特色あるコーヒー
- 雲南省: フルーティーで甘い香りが特徴
- 浙江省: より強い苦味と深いコクが楽しめます
心地よさに欠ける、弱々しい、と悪評の高かったこれまでの雲南省産コーヒーのフレーバープロファイルは、ほとんどがハニープロセスとナチュラル生成への依存に起因するものでした。米国向けのコーヒーは、豆を乾かす前に発酵槽に漬けてから大量の水で洗い流すウォッシュトで精製される傾向にあります。しかし、現在ではこの状況も変化しつつあります。例えば発酵槽に果物やサトウキビの糖蜜を加えたり、嫌気槽を使用するといった方法が用いられるよになりました。この結果、より複雑みを持ったコーヒーが生まれたのです。生産効率の面でもさらに改善が進められています。
2016年の時点では、精製方法や管理不足が要因で収穫量の50%が無駄になっていましたが、近年農園ではパカマラ、マラゴジッペ 、ゲシャといったスペシャリティコーヒー向けの品種の栽培も行われています。特にゲシャは、「クリーミーな舌触りのある、イチゴと生クリームのようなフレーバー」や「紅茶のような控えめなアーシー さと柑橘系の酸味がバランスよく混在している」と国内で人気を博しており、雲南の個性的なテロワール への評価も年々高まっています。
お茶との意外な関連性
お茶とコーヒーは異なる飲み物ですが、生産過程で共通点が多くあります。両方とも精密な温度管理が必要で、それが風味に大きく影響します。
サステナブルな取り組み
中国のコーヒー生産者は、環境に優しい方法でコーヒーを作る努力をしています。これには、水や肥料の使用を最小限に抑えることが含まれます。
中国コーヒーの主な生産地
雲南省の特徴と種類
雲南省は中国の主要なコーヒー生産地です。この地域の特徴は:
- 高地に位置することから、冷涼な気候
- 豊かな土壌が多様なコーヒー豆を生み出す
その他の注目すべき生産地
他にも、広西省や福建省などがコーヒーの生産で注目されています。これらの地域も、個性的なコーヒーを生産しており、多くの人々に愛されています。
中国コーヒーとお茶の楽しみ方
中華風コーヒー
当然のことながら、中国のコーヒー市場にはここでしか見られない特徴があります。
2017年以前は添加物で風味づけされた薄味のミルク入りコーヒーがトレンドでしたが、2017年から2020年にかけてはさまざまなフレーバーで味付けされたコーヒー飲料が人気を博し、当時はまるでソフトドリンクのメニュー表のように、数多くのコーヒーフレーバードリンクが並んでいました。しかし2020年をすぎた頃から無添加を良しとする考え方が定着し、アメリカーノ をはじめとする、コーヒー本来の風味を保ちながらも、豆由来のさまざまな味わいを楽しめるようなブラックコーヒーに人気が集まり出しました。
しかしこうした時代の先端を行くコーヒーに関心を寄せているのは、知識人や流行に敏感な愛好家たちに限ります。そもそも中国のコーヒー愛飲家は苦味を砂糖で打ち消しながら、カフェインの効果を求める傾向があります。
2015年以降、さまざまな企業がこのニーズを満たすために、今までにないような独創的な組み合わせに挑戦してきました。その結果、中国テイストコーヒーは2022年、米国に上陸し、流行を生み出しました。従来のように米国から中国に持ち込まれるのとは真逆の形でトレンドが生まれたことは、コーヒー業界に驚きをもって迎えられました。サンフランシスコには現在、ドリアン、マンゴー、パイナップル、アボガドといった風味のフルーツラテ を定番のドリンクとして販売するカフェが多く存在します。
コーヒーとお茶のペアリング方法
コーヒーとお茶を一緒に楽しむ方法は、味の組み合わせを試す楽しみがあります。
例えば:
- ジャスミン茶と軽やかなコーヒー
- 抹茶と濃厚なエスプレッソ
家庭で簡単にできるレシピ
自宅でできる簡単なレシピをいくつか紹介します。例えば、コーヒー豆を使ったデザートや、コーヒー風味のお茶など、手軽に試せるものがたくさんあります。
消費者サイドでもさまざまな試みが見られ、プーアル茶とコーヒーを混ぜ合わせたコーヒープーアル茶や、香港で古くから親しまれている鴛鴦(えんおう)茶(紅茶、コーヒー、練乳が入ったドリンク)などを消費者の好みに合わせて作るような、さまざまな形のドリンクが登場しています。
中国コーヒーの未来と期待
中国コーヒー業界の挑戦
中国のコーヒー業界は、世界的な市場での競争という大きな挑戦に直面しています。しかし、独自の品質と特色を活かすことで、これを乗り越えようとしています。
GreyboxやSeesaw Coffeeなどのスペシャリティコーヒーブランドは、こだわり派の需要に応えています。ミニマリスティックなスタイルが特徴のこれらのカフェでは、エクレアやミルフィーユといった西洋風のスイーツをよく見かけます。対してローカルの一般的なコーヒーチェーンでは、もっと質素に中国風に作られたスイーツが提供され、コーヒーのクオリティは概ね高くはありません。しかし、現在中国でコーヒー文化が本格的に定着し始めており、「仕事のためにカフェインを摂取する」といった実用的な目的のためにコーヒーを飲む人の数が減っていることは、さまざまな調査によって明らかになっています。
未だ中国の消費者は「バブルガムのようなアフターテイスト」といった表現ができるようなレベルには達していませんが、ほとんどの人は酸味、甘味、苦味などから、好みを理解しています。そして、雲南省が大量生産の代名詞から脱却し、その質の高さで評価されている様子を暖かく見守っています。
消費者として期待できること
現在米国における国民一人当たりの年間コーヒー消費量は363杯、文化的にもそれほど遠くないお隣の韓国が300杯であるのに対して、中国はわずか5杯と、その消費量はかなり少ないことがわかります。
しかし、2015年から2020年にかけて消費量はほぼ2倍に増え、世界のコーヒー市場の成長を支えるミレニアル世代とZ世代のコーヒー消費量は急増しているのです。
その一方で、中国には60kg 袋にして420万袋分の需要があるにもかかわらず、国内で生産された豆のほとんどは海外に流出しているのが現状です。利益の多いアラビカ種の輸出市場に焦点を当ててきた中国は、今やアラビカ種の輸出市場に焦点を当ててきた中国は、今やアラビカコーヒーの生産量で世界第9位になり、ドイツ、ロシアを主な輸出対象国としています。そのため国な消費は輸入に依存しており、2021年には総輸入量は57%を占めるマレーシア、ベトナム、日本、グアテマラ 、コロンビアからの輸入額が前年比増となる11億米ドルに達しています。
消費者としては、これからも新しい種類の中国コーヒーが登場することに期待大です。さらに、環境に優しい生産方法により、安心して楽しめるコーヒーを提供しようとする動きが加速しています。
まとめ
まだまだ中国産コーヒーの熱烈なファンは多いとは言えませんが、状況が変わりつつあるのも確かです。
現在、雲南省のコーヒーの多くはスペシャリティコーヒー協会の官能評価で100点満点中、常に85点以上獲得しています。最も印象的な点として、地域の農園が一貫して同じフレーバープロファイルのコーヒーを生み出していることが挙げられています。雲南省産の高品質コーヒーの生産量を30%増やすことを中国政府が目標に掲げていることを考えると、この傾向は今後も続くと思われます。
こうした進化に消費者も気づいているようです。2022年に実施された調査によると、一級都市ではコーヒー消費量がタピオカドリンクの消費量を上回り、回答者たちカフェインを摂取するという目的よりも、コーヒーの風味、産地ブランドを優先しているとも答えています。調査回答の中で特に驚きだったのは、焙煎豆を含むコーヒーの輸入元をランク付けする質問で、ブラジルとスイスに次いで第3位に中国の名が挙げられたことです。世界の茶生産量の68%を占める国にとって、これは悪くない進展と言えるでしょう。
この記事を通じて、中国のコーヒーの魅力が少しでも伝わったでしょうか? お茶だけでなく、これからは中国コーヒーもぜひ楽しんでみてください。
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